ショパンが嬰ハ短調と変ニ長調を好んだ理由(私見)

ショパンの曲に嬰ハ短調(C Sharp minor , cis moll シャープ4つ)と変ニ長調(D flat major , Des dur フラット5つ)が多い、特に名曲が多いというのはよく知られている。
なぜ好んだかについては、意外とはっきりしたことが書かれていない。鍵盤楽器をあまり知らない音楽評論家などは、響きが気に入ったから、などと書いているけど、やはり黒鍵が多いので弾きやすい、というのがおおむね定説のようだ。


しかし黒鍵が多い調は他にもある。シャープ・フラット6つ・7つの調もあるから、嬰ハ短調の4つ、というのは多いというほどでもない。同じくシャープ4つのホ長調の曲もそれなりに多いが、特に好んだというほどでもない。
また弟子の教育時にはロ長調(シャープ5つ)が弾きやすいので、まず教えていたとも言われているのだけど、ではロ長調の曲は多いかというと、それほどでもない。


嬰ハ短調変ニ長調を好んだ理由についての私見だが、
同主調に転調しても黒鍵が多いから」
ではないかと思う。
ロマン派の曲では中間部で同主調に転調することが多い。ハ長調ならハ短調イ短調ならイ長調など。
長調から短調に転調すると、シャープは3つ減り、フラットは3つ増える(シャープ2つのニ長調は、シャープが1つ足りない分フラットが1つ増え、ニ短調はフラット1つとなる)。例えばロ長調が弾きやすいといっても、ロ短調に転調するとシャープは3つ減るので2つになってしまう。ピアノではあまり弾きやすい調とは言えない。


では転調しても調号の減らない調はあるか、というと、これが案外少ない。
ロ長調の他には例えば、ホ長調はシャープ4つだけどホ短調は1つ、変ホ短調はフラット6つだけど変ホ長調になると3つ・・・といった調子である。
Wikipediaの24調などを見てみるとわかりやすいけど、同主調に転調しても、どちらもシャープ・フラットが4つ以上付く調の組み合わせは、24調・12の組み合わせの中でも、2つしかない。


その数少ない例外の1つが嬰ハ短調変ニ長調の組み合わせで、どちらもドのシャープ、レのフラット(つまり同じ鍵盤・同じ音)が主音の同主調である。ただ音名が違い、調号もシャープとフラットで違っていて、転調すると読みにくいことこの上ないのは、ショパンを弾く人にはよく知られたところ。

で、もう1つが嬰ト短調(シャープ5つ)と変イ長調(フラット4つ)の組み合わせで、ショパンはこちらでも結構名曲を書いている。前者はそれほど多くないけど、後者で途中前者に転調するというパターンは多い。


これはショパン弾きやショパン研究者にとっては常識なのだろうか? それにしてはあまり聞いたことがない説なので、拙いながらもここに書いてみる。


(2016/8/29 後記)
書き忘れたけど、嬰ハ短調和声的短音階だと上昇音階のラにもシャープが付き、全ての黒鍵を使うことになる。この点も都合が良かったのだろう。