薬指(4)が動かない

一冊の本が書けそうなくらいの大問題である。
解剖学的に、薬指の筋肉は小指とくっついているのだそうで、これはどうしようもないことのよう。
ショパンも薬指が思うように動かないとボヤいていたくらい。
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むしろショパンなどはたどたどしい薬指の動きを繊細な表現に活かそうとしていたフシもある。
(「別れの曲」の前半部と中間部前半は薬指と小指の練習、強い親指の制御の練習曲でもある。右手薬指と小指を拷問器具にかけているようなパッセージが相次ぐ。芸術性ばかりが強調されるエチュードだけど、大人レスナーはむしろ練習曲としての側面を意識した方がよい。2小節などもゆっくりだが地味に難しいところである。)


小学校低学年の頃、親戚に、
「手をテーブルにくっつけて薬指だけピンと上げてみて。出来ないだろう。小さい頃からこれが出来ないとピアノは弾けないよ」
とか言われ、「ああ、自分にはもう遅いんだ」と結構長いこと真に受けていた記憶があるけど、全くの俗論で、出来ないのが普通である。子供の頃から練習していれば出来るとか、ある年齢を過ぎればもう決して出来ないとかいうことはない。


薬指の腱を手術で切り離したという例も過去にはあるようだけど、そのような人の中で有名なピアニストになった人は確認されていないので、指を壊したか、運良く壊さなかったものの上達には役に立たなかったということだろう。
弱い薬指を強化するという器具などもずいぶんあったとか。シューマンがそういうのの一つを使って指を壊したと言われている。
ピアニストになりたい! 19世紀 もうひとつの音楽史
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に、拷問器具や大リーグボール養成ギプスのような指矯正器具の数々が出てくる。
重りを持ち上げるとかバネ式のトレーニングなども効果は疑わしいし、指を痛める可能性がある。